mirage -15-



   熊本の山奥。

小さい頃に1,2度連れられただけだったが、意外と道は覚えていた。


「ばっちゃ!!」

インターホンもそこそこに、私は祖母の家に駆け上がる。
祖母の家系は代々巫女の家系で霊感も強く、私のこの力もこの家系から受け継いだんだと確信している。
その祖母自身も霊感持ちで、しかもかなり強い。
きっと、打開策を知っているだろうと思った。

「おやおや・・・夜見子でないかい。こんなところに一人で来たのかえ?」
「ばっちゃ・・・助けて欲しいことがあるの。実はね・・・」

私は今まで起きたことを事細かに話した。
それで親友を傷つけ、少年院に入ったことまで・・・

「そうかえ・・・夜見子が少年院に入ったって聞いて心配してたけど・・・
  鏡渡りした夜見子だったとはねぇ・・・」
「“鏡渡り”・・・?」
「夜見子が体験したことそのまんまだよ。鏡を通して反対の世界に行くことさ
   こうなるなら、ばっちゃの体験も話しておけば良かったねぇ・・・」
「え・・・?」

ばっちゃも、昔“鏡渡り”をしたことがあるという。
     そして今の私のように、好き勝手やって現実というお灸をすえられたんだとか

「因果応報という言葉があるけど、まさにそのとおりだねぇ・・・ 人様に迷惑かけた分、自分も迷惑を被ることになる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「たしかに、夜見子も同じ失敗をしたけど・・・もう大きなお灸はすえられたんだし、まだやり直せるさ。大丈夫」
「でも・・・もう私に鏡渡りはできないんだよ? 私は一生、あっちの明美に会えないままこの世界で暮らすことになるの・・・?」
「そこはばっちゃに任せておけばいいさ。こっちにおいで」

連れて来られた先には、大きな姿見があった。

ばっちゃが鏡の淵をなぞると、波紋が広がり光を発し始める。

「向こうで夜見ちゃんと話をつけておいで。 あの子だって悪い子じゃないからきっと大丈夫さ」
「・・・ありがとう、ばっちゃ」

私は光に包まれ、鏡の世界をあとにした



着いたそこは、学校の屋上だった。
「っなんでここに!?」
目の前にいた夜見子は、大層驚いた様子だった。

「ばっちゃがこっちに戻してくれた。」
「!ばっちゃ・・・余計なことしなくていいのに・・・」

私は真剣な表情で夜見子に歩み寄る。夜見子は、何をされるかと警戒している。

ぎゅっ

抱きしめられるとは思っていなかったのか、夜見子は目をまん丸にした。

「謝って、許してもらおうとは思ってない。どんなに謝っても謝りつくせるものじゃない・・・
     でも・・・ 勝手に振り回して、つらい思いさせて、ごめんね・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「もう、どんなに辛いことも、どんなに悲しいことも、自分で受け止めるから・・・だから・・・」
「・・・・・もう、帰れって言うの?」

無言で、こくりと頷いた

「冗談じゃない!!あたしはまだそっちに全然復讐してない!!あたしが受けた苦しみはそんなもんじゃないんだ!!!」
「でも、そうやって復讐して、自分は嬉しい?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「生意気なこと言うけど、自分にそんなこと言う資格なんてないけど、私と同じ道をたどって欲しくないから・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

しばらくの沈黙が続く


「・・・・・・・・・・・・もう、干渉しないって約束する?」
「うん」
「・・・・・・・・・分かった」

お互いの体が離れる。こうして向かい合ってみると、本当に鏡に映したようだ。

「じゃあ行くよ。向こうの明美のことも心配だし」
「うん・・・」

夜見子は、近くに立てかけた鏡から去っていった。


「あ、いたいた!夜見子ーーーーー!!」

懐かしい声に、私は振り返った。
美坂くんの隣に手を振りながら立つ、栗色の髪のツインテール・・・

「明美!!」
急いで駆け寄って抱きついた。事故の傷跡は残っていないらしい。

私にとっては1年ぶりの再会の喜びに、明美は困惑しているようだった
「まったく、夜見子ちゃんはいつから甘えたになったんですかねー?それにそんなにきつく抱きしめられたら苦しいっての」
「あ・・・ご、ごめっ」
「まーいいけどさ。それよりお弁当持ってきたからここでお昼にしようよ!天気も良いしさ♪」


空を見上げてみる。高い雲を纏った、青空。

向こうの空も同じ色してるかな・・・


・・・人生には、いろいろなことが降りかかる。
幸も不幸も、受け止めるのは自分自身


−完−
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