mirage -6-




テストで取る点数はいつも100点、上位の常連、おまけに生徒会長。
私の噂は瞬く間に広まった。
どんな勉強をしているのかと聞かれたり、時には男子からの告白もあった。

まぁ、どちらも答えようはないのだが。
というか彼氏イナイ暦=年齢、しかも男子とプライベートで仲良くもなったことがない私がいきなり告白なんて、どう答えたらいいのかも分からないし。

なんにしろ、良い意味で注目されるのは戸惑いもあったが悪い気分はしなかった。
とはいっても・・・明美は相変わらずなのだが。でもそれは逆に助かった。

「ねぇねぇ夜見子、今日近くに新しいアイスクリーム屋さんが出来たんだって!一緒に行こうよ!」
「でも私、今日手持ちが・・・」
「えー、お小遣いアップしたんでしょ?」
「それで最近贅沢しちゃって今すっからかん。」

・・・本当のことを言えば、お金はいくらでも手に入る。
向こうの世界でいくら万引きや盗みをしても、捕まる前にこちらに戻ってくればこちらでは何の罪に問われることもない。
実際お金を工面するために何度かやったことがある。

「んもー。じゃあ私が半分持つからさ、ねっ?」
「・・・・・・・しょうがないな・・・」
「やった!決定〜♪」

いつもと変わらない明美のちょっと強引な態度。
でも私は、それに少し妙な違和感を感じた。

「はい、レモンとバニラ、マロン、チョコミントのトリプル。」
「ありがとー。夜見子、席は向こうでいい?」
「あ・・・うん」

「明美・・・よくそんなに食べられるね・・・」
レモンシャーベットを頬張りながら、呆れ顔で私は聞いた。
「だってキャンペーン中なんだよ?食べなきゃ損じゃん!」
満面の笑みで無邪気に縦にスプーンをいれ、バニラとマロンとチョコミントの味を楽しむ明美。
こういうところが、人気の秘密なのかな・・・

でも、今日の明美はなんだか違う。

「・・・ねぇ明美、最近なんかあった?」
微かに、明美の顔が強張った。
「・・・なんでそんなこと聞くの?別になんもないよ?」
笑みを浮かべているが、作り笑いだということは私にはすぐに分かる。
「誤魔化したってだめ。明美の嘘はすぐ分かるよ」

観念したように、目を伏せる明美。
「・・・あはは、夜見子は何でも分かっちゃうんだね・・・敵わないや・・・」
「悩み事・・・?」
「・・・・・・・・・実はね、彼氏と上手くいってなくてさ・・・別れる寸前だったり。」
「え・・・!?」

正直驚いた。いつもラブラブで、喧嘩すらしたことなかったのに・・・

「あんなに好きだったのに・・・何でだろね・・・
今、自分の気持ちよく分からないよ・・・・・・・・・・っ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

何も言えなかった。恋愛経験が皆無な私は、こういう時だけは力になれない。
ただずっと、明美の話を聞いてあげることしか出来なかった・・・


   1週間後

明美から別れたということを知らされた。

「仕方がないよ」という明美の表情は、見ててとても痛々しかった。

・・・・・・・私には何も出来ないのかな・・・
屋上から見える空を眺めながら、明美との最初の出会いを思い出していた。


あれは、入学式からまだ1週間も経っていない頃。

私は人見知りするタイプで、いまだに友達はおろか誰かと十分に話すことすら出来なかった。

「リボン曲がってるよ、麻倉さん」
そんな私に初めて声をかけてくれたのが、明美だった。

パッと見ギャル系で、苦手なタイプだったので曖昧に返事をしてその場を切り抜けるつもりだった。
だが、明美はそれからもちょくちょく私に話しかけるようになった。

1年の夏休みごろに、何故私に話しかけてくるのかと明美に問いかけたことがある。
そっちは既に多くの友達がいたのに、なぜわざわざ私に・・・と。

それに明美は
「ねぇ、私の下の名前、分かるよね?」
と、問い返してきた。

「えっと・・・明美・・・さん・・・?」
「明美、でいいよー。       ほら、夜見子と明美、頭をくっつけたら夜明でしょ?  だから一緒にいたらどっちも夜明けが迎えられるかなーってさ」

意味が分からなかった。
分からなかったけど、なんだか楽しかった。
それから明美には気が許せて、友達も増えるようになった。

明美にはたくさんのものをもらった。
趣味や考え方が違うゆえの発見は、私を大きく変えた。生徒会長になれたのだって、明美が勇気をくれたからだ。
だから、明美には感謝しても仕切れないくらい感謝している。
だから・・・少しでも良い。明美の力になりたい。



ふと、捨てられた鏡が目に入った。

私は、思わずそこに向かって走り出していた。

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