mirage -14-



この1年、壮絶なものだった。

規律を少しでも乱せば怒号と罰。私語はもちろん禁止でタメ口も許されない。
そのあたりは生徒会長でみっちり鍛えられていたので良かったものの、今まで関わったことのない暴走族風の人たちとの共同生活、陰湿ないじめ、過酷な体力づくり・・・

経験したことない過酷な状況の連続に、身も心もボロボロになっていった。

鏡を見ると、そこには自分という名の死神が映っていた。
それほど、私の顔は豹変していた。

自分のものがない分、私は自由時間ではいろいろと考え事をしていた。
思えば、こちらの夜見子と再会した時、随分と大変なことをいろいろ聞かされたような気がする


「そっちさ・・・この世界のこと鏡の中の世界とか思ってるでしょ?
           でも、こっちからしたらそっちの世界が「鏡の中の世界」なんだよ」


「つまりどっちが上でどっちが下かないんだよ
  そして互いの存在は互いの願望と本音。」


「要するに、そっちが軽蔑してるあたしはほんとはそっちが「なりたい自分」だったりするんだよ」


「自分だって思ってるんでしょ・・・?たまにはハメ外したいって。
  ご近所さんに気を遣って、真面目な生徒会長演じて、息苦しいでしょ」


「明美だってそう。あっちの明美は・・・いつも明美が言ってた「なりたい自分」だった。
  あっちの明美も、ほんとの姿はこっちの明美みたいな姿なんじゃない?」

明美・・・表面でこそ気さくで明るいけど、ほんとはいつも孤独で、自信がなくて、寂しかったのかな・・・
だから・・・どんなに友達がいても私にだけは、特別に懐いてたのかな・・・

岩本くんも、雪白さんも、美坂くんも・・・ほんとの自分やなりたい自分を内に秘めてるのかな・・・


ほんとの自分・・・か・・・

今まで私は、親を困らせないように、ご近所で悪い噂が立たないように、「良い夜見子」、「生徒会長の麻倉さんところの娘さん」を演じてきた。
だがそこまで苦痛というわけではなく、自分も出しているつもりだった。

しかしその反面、平気で盗みをしたり人を傷付けている自分もいる。


・・・自分が情けなくなった。

自分はこの世界を、私達のいる世界の模造品くらいにしか思っていなかった。
盗みをしようが殺しをしようが、自分の世界には関係ないと思っていた。

だがこの世界でも人はいて、一生懸命に、自分なりに生きている。
助けられれば嬉しいし、傷つけられたら悲しい。
私の世界の人たちと・・・私と、まったく変わらなかった。

自然と涙が出てきた。
私は、この世界でどれほどの人を傷つけ、どれほどの罪を犯したのだろう・・・
美坂くんは、明美は、心を込めて私に接してくれたのに、私はその心を紙ぺらか何かぐらいにしか思っていなかった・・・

「しゃきっとしなさい夜見子・・・そんなんじゃ生徒会長なんて務まらないぞ・・・・・!」


遅すぎる、自分への忠告だった。



「お世話になりました」
「もう、来るんじゃないよ」

少年院の門の前、担当教官に見送られ、私の地獄の1年はようやく終わった。


だが、これからどうしよう・・・

とにもかくにも、自分の世界に帰りたかった。
やはり自分の世界だし、なにより明美のことが気にかかる。

自分の財布の中を見てみた。
意外にも余裕がある

この能力は・・・あの人に頼るしかない・・・


私は駅へ向かうと、熊本行きの新幹線の切符を買った。

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